不安障害(パニック障害、強迫性障害など)
不安障害(パニック障害、強迫性障害など)
人が生きていく上で、ほどほどの不安を感じることは、自分を守るためにとても大切です。
しかし、その不安がいき過ぎてしまうと、日常生活に支障をきたすようになります。このように、いき過ぎた不安を感じるようになった状態を「不安障害」と呼びます。不安障害には、パニック障害、強迫性障害、全般性不安障害、社交(社会)不安障害などがあります。
突然理由もなく不安感が出現し、動悸やめまい、発汗、窒息感、吐き気、手足の震えなどの症状が出現する発作をパニック発作といいます。パニック発作を繰り返し、また発作が起きたらどうしようかという不安(予期不安)が強くなり、そのために生活に支障が出ている状態をパニック障害といいます。パニック発作は死んでしまうのではないかと思うほど強くて自分ではコントロールできないと感じます。そのため、また発作が起きたらどうしようかと不安になり、発作が起きやすい場所や状況を避けるようになります。最初に発作が起きる原因には、過労やストレスなどが関係していると考えられています。その後、再発することへの強い不安(予期不安)によって発作が起こる場合もあります。
パニック障害の治療では、抗うつ薬や抗不安薬による薬物療法とあわせて、少しずつ苦手なことに挑戦し、慣れていく心理療法(曝露療法)が行われます。無理をせず、自分のペースで取り組むことが大切です。曝露療法では、その人が予期不安を感じる状況や対象に、実際に、あるいは想像の中で繰り返し向き合わせ、刺激が効果を失うまで、不安を反復して経験してもらいます。一般的には、簡単に耐えられる弱い曝露から開始し、曝露のレベルを段階的に実際の状況に近づけていって、実際に被害が生じる可能性が低いことを経験し自信を獲得していただくことを目的としています。また、パニック発作が起きる状況を回避せず、自分が今抱いている恐怖心には根拠がないことを認識し、ゆっくりとした一定の呼吸をするなど、緊張感を和らげリラックスする方法を学ぶなどの認知行動療法も有効です。薬物療法では、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)などの抗うつ薬と、ベンゾジアゼピン系薬剤など抗不安薬が有効です。抗不安薬は即効性がありますが、眠気を催し依存傾向になることがあるため、通常は抗うつ薬の効果が出たら、用量を減らし服用中止を目指します。
強迫性障害(OCD; obsessive–compulsive disorder)は、強迫観念と強迫行為の2つの症状が、少なくとも2週間以上、ほぼ毎日みられ、生活に支障をきたす病気です。強迫観念は、「鍵やガスの元栓をしめ忘れたのではないか」、「手にバイ菌がついているのではないか」(不潔恐怖)、「車で人をひいてしまったのではないか」(加害恐怖)など、意思に反して繰り返し頭に浮かぶ考え、観念、イメージであり、不快感、不安、苦悩、苦痛を引き起こします。強迫行為とは、強迫観念を抑え込もう、振り払おう、消してしまおう、中和しようとして、「鍵や戸締りやガスの元栓などを何度も確認する」(確認強迫)、「何度も手を洗う」(洗浄強迫)、「何度も同じ道を通る」などの繰り返す行動や儀式的行為のことです。強迫行為は、自分でも過度で不合理でばかげた行動だと思いながらも行わずにはいられず、多くの時間やエネルギーを費やして社会生活や日常生活に支障をきたします。強迫性障害の生涯有病率は1~2%程度、男女比はほぼ同等といわれています。
強迫性障害の治療には薬物療法、精神療法を行います。薬物療法では抗うつ薬であるSSRIを使用します。SSRIはセロトニンという神経伝達物質を神経と神経の間で増加させる働きの薬です。抗うつ薬は飲み始めてから効果発現までに2週間ほど時間がかかります。その他の抗うつ薬(クロルプラミンなど)や、抗不安薬、少量の抗精神病薬などを使用することもあります。精神療法では認知行動療法の中の曝露反応妨害法という治療を行います。曝露反応妨害法とは、患者さんを意図的に強い不安や恐怖に曝露して、それを解消するための強迫行為や儀式行為を行わせないこと(反応妨害)で、強迫行為を繰り返さないようにしていく治療法です。強迫行為なしで、不快感・不安感・恐怖感を長時間放置することでこれらの感情に慣らしていき、徐々に苦痛を減少させていきます。
強迫性障害は根気よく継続的に治療をおこなっていく必要があります。症状を完全に無くすことにこだわりすぎず、まずは日常生活に支障をきたさない状態、苦悩や苦痛が和らぐ状態を目指します。
もともとは不安神経症といわれていたこの病気は、1980年に米国精神医学会の診断用語で、パニック障害と全般性不安障害に分けられました。全般性不安障害(GAD;Generalized Anxiety Disorder)とは、様々な出来事や活動について過剰に不安になったり心配したりするという病気です。誰もが感じる正常な不安は、はっきりした理由があってその間だけ続きます。しかし、全般性不安障害の場合には、多数のあることないことを想像しての過剰な不安と心配(予期憂慮)、恐怖の原因がはっきりしない漠然とした不安(浮動不安)などが長時間続き、ついには日常生活にも支障をきたすようになります。
全般性不安障害の有病率は約3%で、女性は男性よりも2倍この障害になりやすいことがわかっています。発症年齢の中央値が30歳であることが示すように、他の不安症群と比べて患者さんの年齢が高く、有病率は中年期でピークに達します。原因はわかっていませんが遺伝的要因や神経質の性格、現在のストレス状態や自律神経の障害などが関係するといわれています。治療には、精神療法と薬物療法があります。薬物療法では、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)や抗不安薬が使用されます。
社交(社会)不安障害(SAD;Social Anxiety Disorder)は、日本では、対人恐怖症、赤面恐怖症といわれていたものです。他者から注目されるかもしれない場面、人前で恥をかいたり恥ずかしい思いをすることを極度に恐れ、そのような社会的状況に対し強い不安や苦しみを感じ、避けるのが特徴です。10代に発症しやすく、男性に多いことがわかっています。
治療としては、恐怖を感じる社会状況に対して、実体験として段階的に慣れていく(暴露する)暴露療法などを行います。薬物療法としては抗不安薬や抗うつ薬などが使用されます。